高知弁護士会

b 目標未達成
亡Aは,規格改定等の作業に従事していたが,これを内部査察(自 己点検)の日である平成9年11月26日までに終わらせることがで きなかった。
このことが,品質管理責任者の職務の重圧に苦しむ亡A に,さらなる精神的負荷を与えた。
当時,亡Aが従事していた規格改定作業には,?日本薬局方の改正 に伴う規格書の改訂作業と,規格書への再試験項目の設定とがあっ た。
これらの規格改定作業は,質量ともに困難な業務であった。
これ は,亡Aの死後,同作業を引き継いだE課長がこれを完了するのに, 平成10年11月6日までかかったことに現れている。
また,亡Aは, 本作業を行うに当たって,L工場長から,会社の不利益にならないよ うに進めるよう指示を受けていたが,亡Aに課せられていた仕事は, このように改正薬局方の要請と会社の利益という2つの価値基準の間 で悩みながら改訂の内容を決めるという難しいものであった。
このように,規格改定作業は難しいものであったが,亡Aは,勤務 時間中にはトラブル対応や製品検査等で席を空けることが多く,落ち 着いて作業をする時間がとれず,平成9年9月17日以降は,Jとの 勉強会もあり,ますます時間がなくなっていった。
そこで,亡Aは, 同作業を期限内に完成させるために,自宅に持ち帰ってやらざるを得 なくなった。
亡Aに課せられていた規格改定作業は,平成9年11月26日の内 部査察(厚生省令上の自己点検)までに完成させなければならないも のであった。
大宮工場においては,本来は,平成8年4月の厚生省告 示の段階で,速やかに改訂作業に着手し,完了しておくべきであった 薬局方第13改正に対応した規格書の変更が,平成9年秋の段階でい まだに完成していなかった。
この対応には,1年半の猶予期間が設け られているが,この期間さえ,平成9年10月の時点で過ぎていたの である。
そこへ,同年11月26日に本社からの内部査察(自己点 検)があるということになれば,それまでに書類を整えなければいけ ないのは当然である。
そのため,亡Aは,期限を前にした同年9月か ら11月にかけて,自宅において連日のように時間外労働を行い,作 業を続けた。
しかしながら,亡Aは,期限までに同作業を完成させる ことができず,内部査察の日である11月26日未明,自ら命を絶っ た。
規格改定の担当者であった亡Aにとって,改訂作業が間に合わな いことは多大な精神的ストレスになった。
被告は,亡Aに課せられて いた規格改定作業には期限が定められていなかったと主張しているが, かかる主張は,亡Aに対し,同作業をその法定の期限である平成9年 10月までに完成するよう命じたE課長の別件訴訟(東京地裁平成1 1年(ワ)第2260号事件)における証言に反する。
c 精神的虐待(いじめ・ハラスメント) 亡Aは,品質管理課内の同僚から厳しく批判,非難されており,こ れは亡Aに対する精神的虐待ともいえるものであった。
このような同 僚からの精神的虐待により,亡Aはさらなる精神的打撃を受け,心理 的に追い込まれていった。
亡Aに対する職場のいじめの中で,最も痛烈であったのは,亡Aと 同じ品質管理係に所属するIによるものであった。
Iは,品質管理課内 だけでなく,課外においても,ほかの職員の面前で,人間として侮辱 するようなこき下ろし方で,亡Aを面と向かって罵倒した。
これに対 し,亡Aは,皆の前で非難され,歯を食いしばって手を震わせ,口も きけないことがあり,また,喫煙所で後ろ向きに立って震えていたこ と,現場で真っ青になっていたこともあった。
亡Aより約15歳ほど 年少であるIからの罵倒やいじめは,亡Aにとって大きな精神的スト レスとなった。
このようなIの亡Aに対する厳しい罵倒やいじめは, 亡Aの死亡直前まで続いた。
Iによる言動は,亡Aの上司であるE課長,L工場長も知るところ であったが,同人らは,見て見ぬふりをし,状況を改善する措置を採 らなかった。
そのために亡Aの精神的負荷はさらに高まった。

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